「大切なお知らせがあります。」
「私に何か?」
「来週から是非とも我が団体の本部で活動して欲しい。」
「本当ですか?!ありがとうございます!」
7年目にして叶った昇進。本部所属とでもなれば、騙し取った金は全てマルクスの懐へと入っていく・・・
『コンコルド広場(※1)の近くの街路樹はこのあたりのような…』
「マルクスさんですね。お待たせしました。お乗りください。」
男がセンチュリー(※2)から声をかける。
「あぁ、はい。」
『黒いスーツに黒いネクタイ、そして黒いサングラス。何で全身黒なんだ?SPか、もしくは喪服にしか見えん。』
「わたしももっと正装のほうが良かったでしょうか。」
「いえいえ、構いません。申し遅れました、私の名はブラウン。本部で総務をしております。」
「よ、よろしくお願いします。」少し緊張してきた。
「それにしても、この広場は紅葉と哀愁が漂っていて本当に美しいですね。まるで油絵のようだ。」
「よくここに来られるのですか?」
「昔はしょっちゅう来ましたよ。転勤して以来ですね。10年、振りに見たかな?」
『10年?何で10年も見てないんだ??』考える前に続けてブラウンが発する。
「あっ、」
「どうかなさいましたか?」
「ここからはこれを付けてくださいね。」彼が渡してきたのは『アイマスク』だった。
「アイマスク?」
「本部の位置は機密事項なんで。」
「え、でも・・・」
「付けました?」
いろいろ聞きたいが、仕方なく付けることにした。
「まず、本部に到着したら控え室…失礼、あなたの住む部屋で待機してもらう。」
「通勤じゃないのですか?」
「住込に決まっているでしょ。ばれたらどうする。」
ブラウンの一喝にマルクスは縮こまった。
「すまん。少し気が狂ってしまった。」と笑いながら言う。
『こいつの調子に合わせるとこっちも狂ってしまいそうだ。』
「最近、本部の社員が増えたそうで。」と彼の調子を恐る恐る、伺うように話題を変える。
「前は700とかだったが今は1500はいるな。本部の警備を強化するためだろうな。」
『警備?!』詐欺師のマルクスは一瞬、反応してしまった。
「着きましたよ。気をつけて降りてください。」
『まだ外してはいけないのだろうか。』我慢して、そっと降りた。
「こっちです。」とブラウンがマルクスの腕を掴む。
スロープだろうか。なんとなく下っていくように感じる。
「着きましたよ。外していいですよ。」
遂に暗黒世界だった目の前に光が差し込む。単価の低い闇商売から本部という夢にも見なかった光が今、網膜に届く。
「・・・!」
光の中から一番最初に現れたのは・・・
「ここは?!」
「今日からお前の住むところだ。」状況が理解できず、慌てふためいている。
「残念だったな。」
全身黒のブラウンが哀れむようにこちらを見ている。
『くそ、そういうことだったのか…』
気づいた時にはすでに遅し。
外の世界の光が差すことは二度と無かった。
「・・・という作戦で騙すつもりだ。ブラウン、そこの電話で奴に連絡してくれないか。」
「はい、かしこまりました・・・もしもし、マルクス様でしょうか・・・」
「今年は何人騙されるかな??」
その男は、腹の底から笑った。
(※1)コンコルド広場
フランス・パリに実在する広場。歴史上では、あることで有名。
(※2)センチュリー
トヨタ自動車が販売している車種。
日本の内閣総理大臣専用車としても利用されている。
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